会長挨拶

第71回日本リウマチ学会総会・学術集会の会長を務めさせていただきます、東京大学大学院医学系研究科免疫学の高柳でございます。1957年の創設以来、長い歴史と伝統を重ねてきた本学術集会を担当させていただきますことを、大変光栄に存じます。本学会の発展を支えてこられた歴代学会長、学術集会長ならびに会員各位に、心より御礼申しあげます。
日本リウマチ学会は、その黎明期より、内科、整形外科、小児科、病理学、免疫学など、多様な専門分野の医師・研究者が集い、臨床と基礎研究の両輪によって発展してきた学会であります。私は整形外科医として臨床に携わった後、基礎研究の道に進み、骨免疫学という境界領域の研究を通して、リウマチ性疾患の病態理解と治療概念の変革に関わってまいりました。基礎研究が臨床の進歩を支え、診療の在り方そのものを変えてきたことを、研究者として、また臨床に携わった者として強く実感しております。
現在、リウマチ学は新たな転換点に立っています。臨床現場においては、生物学的製剤をはじめとする様々な分子標的薬が使用可能となり、臨床的寛解が具体的な治療目標となり、全体としての治療成績は大幅に向上しました。その裏でアンメットニーズが浮き彫りとなり、より適切な治療を行える個別化医療の必要性が叫ばれるようになりました。こうした動きに応えるためには、臨床から基礎研究へのフィードバックと、基礎研究の成果を臨床へと橋渡しするトランスレーションという、双方向の連携がこれまで以上に重要性を増しています。例えば、scRNA-seq をはじめとする単一細胞解析技術やゲノム・エピゲノム解析の進展により、これまで多様性を含む疾患と捉えられてきたリウマチ性疾患を、免疫細胞や支持細胞の状態、相互作用、さらには時間的変化に基づき、多様性を分子の言葉で緻密に理解できるようになりつつあります。単一の診断名のもとに含まれていた多様な病態を層別化し、それぞれに応じた介入戦略を考えるという視点は、今後の精密医療の基盤となるものです。
自己免疫疾患の理解において、基礎研究がもたらした最も重要な概念的転換の一つが、制御性T細胞の発見であったと考えております。この発見は、自己免疫疾患を「過剰な免疫応答の集合体」として捉える見方から、免疫制御機構の破綻という構造的理解へと導き、疾患概念そのものを大きく変える契機となりました。また、CAR-T 細胞療法による全身性エリテマトーデスの寛解は、造血器腫瘍を対象として開発された治療法が、疾患の免疫学的本質に基づいて自己免疫疾患に応用され、従来の治療概念では想定し得なかった深い寛解をもたらした事実は、基礎研究に基づく介入が疾患理解を変え、その結果として疾患の在り方そのものを変え得ることを明確に示しています。
そこで、本学術集会のテーマを「Beyond Treatment ― 基礎と臨床の往還が変えるリウマチ学―」といたしました。治療法の進歩は、これまで多くの患者さんの予後や生活の質を大きく改善してきました。しかし、これからのリウマチ学に求められるのは、治療の選択肢を増やすことにとどまらず、疾患をどのように理解し、どのような単位で捉え、どこから介入するのかという学問的枠組みそのものを問い直すことであると考えております。本学術集会では、基礎研究がその枠組みを変え、リウマチ学全体を前進させてきた現在進行形の姿を共有したいと考えております。
一方で、私自身が近年、国際的な研究活動を担う機会が増えていることも事実であり、学術集会の準備・運営に影響が生じることのないよう、万全の体制を整えることが重要であると考えております。そこで本学術集会では、副会長として埼玉医科大学整形外科学教授の門野夕峰先生にご参画いただき、準備および運営の実務全般において全面的にご協力を賜る体制を構築いたしました。門野先生の豊富な臨床経験と高い見識は、本学術集会の円滑かつ充実した運営に大きく寄与していただけるものと確信しております。
本学術集会では、基礎研究と臨床研究の融合的な議論に加え、次世代を担う若手研究者に光を当てる企画、分野横断的な視点から学ぶ企画などを通じて、学会全体の活性化と将来への発展につなげたいと考えております。プログラム委員会ならびに関係各位のご指導とご協力を仰ぎながら、参加されるすべての皆様にとって実り多い学術集会となるよう、鋭意準備を進めてまいります。
本学術集会が、リウマチ学の次の時代を考える契機となることを願い、皆様のご参加と活発なご議論を心よりお願い申しあげます。